ミライスト通信
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札幌に新たに誕生したモノづくりの拠点
Makers’ Base Sapporo

8月29日、札幌市中央区にモノ作りを愛してやなまい人たちためのシェア工房「Makers’ Base」の国内2拠点目がオープンした。場所は、東西線西11丁目駅から徒歩7分ほど。以前は倉庫だったというキューブのような3階建ての広々とした空間には、陶芸やテキスタイル、木工などの機器が所狭しと並べられている。「ろくろを触ってみたかった」「彫金を習ってアクセサリーをつくってみたい」ー Makers’ Baseは、そんな人たちを温かく迎え入れ、彼らの好奇心を満足させるだけでなく、個性的なワークショップの数々でモノをつくることの楽しさを教えてくれる。Makers’ Baseの最高執行責任者の松田純平さんと札幌店の店長となった猪熊梨恵さんにMakers’ Baseについてお話を伺った。

松田さんはMakers’ Baseの創立メンバーで、この事業を構想された方だと伺っています。何がきっかけでMakers’ Baseを作ろうと思われたのですか?

松田:僕は元々、ヒューマンリソースマネージメントという領域のコンサルティングをしていました。平たく言うと、採用や育成、報酬体系を作ったり、組織風土を良くするためにイベントを企画したり、人間が働くということに対して、いかにモチベーションと生産性を高められるかを仕組みの部分から考えることが仕事だったんです。その仕事のなかでより良い形を追求していくうちに、小さな組織や個人が今よりもっと活躍できる豊かな世の中を作りたいという思うようになりました。その時に、今、モノづくりというものが求められていて、且つ、そこにチャンスがあると感じ、2年前に1拠点目となる目黒のMakers’ Baseを5人で立ち上げました。

Makers’ Baseはどのような場所なのでしょうか?

松田:モノを作りたい、作る力を高めていきたいと思う方が分野を問わず集まり、場所としてシェア、能力としてシェア、機械をシェアし、シェアしながらやっていく「シェア工房」です。

施設内では講師のサポートを得ることができる。

「シェア」という言葉を何度も繰り返されましたが、「シェア」にこだわった理由は何でしょう?

松田:小さな組織や個人の力を高めていくためには、究極的に言えば、仕事の単位を小さくしたらいいんじゃないかと思うんです。今の状況は、面白くて大きな仕事は大手代理店を経由して下請けに渡され、能力を持った人は適切な額を支払われていないのではと思います。面白い仕事があれば、それに対して自分が価値を出せそうと思う人が集って、本当に能力のある人に適切な額が支払われる仕組みを作りたいと考えると、結局、その小さな組織や個人が上手な繋がりをつくることが大事になってくる。それは、仕事の渡し方も、能力の高め方も、タッグの組み方もそうだと思います。そうすると、シェアという考え方が大事だと思い「シェア工房」という形に強くこだわりました。

もうひとつのキーワードは「工房」ですね。こちらの工房で出来ることはどのようなことなのでしょうか?

松田:領域で言うと、陶芸、縫製、テキスタイル、金工、木工、デジタル加工の6つになります。デジタル加工は、パソコンに入れたイラストレーターのデータがそのまま出てくるものと思っていただければ良いかもしれません。そこに3つのサービスがあります。ひとつは、会員としての「施設利用」です。施設利用は、日額・月額・年額でこの場所と機械を利用でき、スタッフに相談することも可能です。

機器を使った本格的な木工制作の様子。
シルクスクリーンを使ってオリジナルのテキスタイルを制作することもできる。

松田:2つ目のサービスは、会員にならなくても参加できる「ワークショップ」です。例えば、自分でデザインしたテキスタイルでがま口を作るワークショップというがあります。これは、「ものづくりがしたい」というよりは、「セレクトショップでオシャレなものが欲しい」という気持ちが高まって「作りたい」と思うようになった人向けですね。テキスタイルのデザインの素材は、その場で絵を描いていただく場合もありますし、持参していただいた写真を使う場合もあります。

ワークショップ「生地からデザインする本革のがま口ミニポーチ」の様子。
口金などのパーツは参加者が選べるようになっている。

松田:3つ目のサービスはオーダー制作です。これは施設にいらっしゃらなくても自分のオリジナルを作ってほしいという依頼があれば、我々スタッフか、もしくは会員さんに渡して作っていただくという形です。たとえば写真だけをお借りして、それを用意してあるテンプレートに落とす形もできますし、お客様自身がイメージしているものをお伺いして、一から作っていくこともできます。

会員としてのメリットについて、もう少し詳しく教えて頂けますか?

松田:会員のメリットは、場所と機械の利用がメインになりますが、怪我や機械を故障を防ぐために、操作方法を知るためのトレーニングを20種類のなかから受けることができます。もうひとつは、Makers’ Baseで企画したイベントに参加して頂けますので、他の方たちと繋がりを持つこともできます。

UVプリンター基礎講座の様子。
生地インクジェットプリンター基礎の様子。

イベントはどういったものなのでしょうか?

松田:参加者は大人の方が多いので、飲み会形式のコンテストなどですね。これは、1辺が5センチの立方体をつくるというテーマで、小さなキューブのなかでどれだけ高いクオリティを出せるかを競い合うコンテストの時の様子です。製本家やジュエリーデザイナーなど、上は60代くらいまで幅広いジャンルの方が参加していたので、技術や発想を共有しながら作品について語り、お酒を飲みながら楽しんで頂くというものでした。ほかには勉強会なども開催しています。

「555キューブエチュード」は、立方体をつくる飲み会形式のコンテスト。10月17日には札幌での開催も予定されている。
「555キューブエチュード」で発表された作品の数々。箱の中には作り手独自の世界が展開されている。

東京店はオープンして2年になるそうですが、現在の会員数や男女比はどのような感じなのですか?

松田:会員数は約3,000名で、男女比はほぼ一緒です。4割はプロかセミプロの人で、2割5分くらいが会社でデザインや商品開発というような仕事に携わっていらっしゃる方。2割弱くらいが美大や芸大を目指している学生の方や在学中の学生の方、卒業して間もない方もいます。

色々な方たちがいらっしゃって、とても刺激的な環境なんでしょうね。

松田:そうですね。例えば、50代のプロの方がある機械を使っている横で、美大を目指す10代の方が何かを作っているような状況もありますし、Makers’ Baseで知り合ったグラフィックデザイナーの方と革作家の方がタッグを組んで一緒にプロダクトを制作されたこともあります。自動車メーカーのカーデザイナーの方と、電子機器メーカーの方が知り合って、その自動車メーカーのCMに電子機器メーカーの技術を使うというような、仕事上で繋がる場合もあるようです。会員として通われている方の中には大手企業のトップデザイナーで、他の会員の方に機械の使い方を指導してくださる方もいるんですよ。

プロを目指す方にとっては素晴らしいチャンスですし、すでにプロの方には初心に帰る貴重な機会になっている気がします。ところで、今年7月には新宿伊勢丹でワークショップも開催されていましたね。

松田:新宿伊勢丹さんは日本一の百貨店ですが、単純に物を販売していくことに対して危機感を持ち、色々な取り組みをされています。そのひとつの方向性として、「もの」ではなくて「こと」を売ることを目指されていて、「作ること」もそれに当てはまるんじゃないかとご相談いただき、Makers’ Baseのワークショップをそのまま持っていく形で実施しました。会期中は、Makers’のスタッフが通りがかりのお客様とオリジナルのプロダクトを作っていきました。僕達のワークショップのコンセプトは、ただ作るだけでなく、「良品」を作ることなんです。出来上がったものが使いたいものになるかどうかが重要で、本当にいいものを持って帰ってもらうことを優先しています。

伊勢丹新宿店2階で開催されたワークショップ「Makers’ Base in 伊勢丹新宿店」でのサンプルプロダクト。

仰るように、Makers’ Baseのサイトで紹介されているワークショップの情報を拝見した時に一番印象的だったのは、出来上がりの完成度の高さでした。一般的なワークショップでは、モノづくりという部分は楽しめても、完成品にはあまり満足できないということが多い気がします。

松田:ワークショップでの体験が楽しかったとか、学びがあったとかいうのは悪くはないですが、そこに払える金額には限界があると思うんです。例えば、2、3時間かけて話を聞くだけならよっぽどその人のことが好きじゃないと行かないですし、勉強会だと長くなればどんどん退屈に感じてしまいます。これは体験ではなく、ファッションなんです。セレクトショップでファッションに払うなら5,000円くらいは高くないですよね。僕がベンチマークしてるのはそこです。今、人気のブランドは何を出しているんだろう、どういう形が流行ってるんだろう、女性誌は何を特集してるんだろう、ということを開発時に基準にしています。逆に言うと、ワークショップの場合は、開発できる人がいないと成り立たないビジネスでもあります。

札幌ならではのワークショップの企画もあるのでしょうか?

松田:エゾシカのがま口ポーチをつくるワークショップは札幌だけですね。札幌ならではの素材とモチーフと道内在住の特色のある作家の方を組み合わせた内容になっています。

札幌限定ワークショップ「北海道産の高級素材であるエゾシカ革を使ってつくるがま口ポーチ」
好きな写真を選ぶところからスタートする2時間半のワークショップでは、スタッフが品質向上のサポートをしてくれる。

ところで、なぜ二拠点目に札幌を選ばれたのでしょうか?

松田:僕は北海道出身ではないのですが、北大出身で札幌に縁があり、札幌を大好きだということが大前提にありますね。二つ目は、札幌にはポテンシャルというか、市場性があると思ったからです。札幌には美大や芸大がないですよね。にもかかわらず、北海道から芸大に進む人は九州などに比べると圧倒的に少ないらしいんです。

芸術に触れるチャンスが少ないからではないでしょうか。

松田:その通りです。別に素養がない訳ではなく、たまたまそのチャンスがなく、たまたまその土地にそういう道を作った人が少なかったということだと思うんです。グラフィックデザイナーは結構いますが、物を作って食べている人は人口の割合的に見て、とても少ないですよね。例えば、ここが大都市で大きなビルが立ち並んでいるなら、知識産業に寄り金融が発達したりします。でもそうではないということは、アナログ寄りになるはずなのに、それが少ない。それは、やはり“たまたま”だと思うんです。地元の人に伺うと、作りたいと思っている人は多い。つまり、その“たまたま”を解消する=市場、なんです。将来的には、Makers’を通して芸大に進学する人も出てくるのではと思います。そういう人を掘り出すこと自体が市場のポテンシャルのひとつです。市場のポテンシャルを感じる理由はもうひとつ、大事なものがあります。札幌に住んでいた経験があるからこそ思うのは、札幌は観光都市なのに「食」以外に殆どない。「札幌でどこに行ったらいい?」と聞かれて、答えに困ってしまうことがあります。

札幌の多くの人がそう感じていると思います。

松田:旅行というのは予算が決まっている個人の消費ですよね。例えば、お金を使いたくて海外から札幌にやって来る人は大勢いるのに、食を楽しんだ後は、決まったお土産を買って帰る。それってちょっと残念じゃないですか。ですが、それに対してワークショップやオーダーで「作る」という体験と、体験と一緒にそのお土産の需要を獲得できるんじゃないかと感じています。例えば、一週間の旅行に来た方が最終日にこちらに立ち寄り、旅行中に撮り貯めた写真を使って2時間後にはこのバッグが出来上がっている。となると、これも観光のひとつですよね。その需要があると感じたんです。

「あなたの写真で作る MacBookケース」は、送ってもらった写真をランダムに組み合わせ、ファブリックインクジェットプリンタでキャンバス生地に印刷し、MacBookケースをつくるというもの。

松田:そして最後はやはり、今回、札幌店の店長になっていただいた猪熊さんという戦うための資産があることですね。

確かに心強いですね。猪熊さんは、札幌オオドオリ大学の学長として活躍されていますが、どのような経緯で店長を任されることになったのですか?

猪熊:松田さんが大学卒業後に、オオドオリ大学の渡辺保史先生による「2050年を考える」という授業にゼミ生として通われていたんです。その中で新しい提案を沢山されていて、「札幌にはあまりいないタイプの人だな」と感じていました。その後、Makers’ Baseがまだ原石くらいの頃から「こういうのってどう思う?」と、よく一緒に話していました。「Makers’ Baseを札幌に作ろうと思う」という話を聞いた時にも、実現すれば街自体が一歩前に進めるように感じて、「松田さんが言ってくれるなら私もやります」と引き受けました。

猪熊さんは札幌のMakers’Baseをどのような場所にしていきたいと思っていらっしゃいますか?

猪熊:この場所の特徴は、1・2階が木工・金工、2階がデジタル機器、3階が陶芸やテキスタイルなので、ジャンルによって使う人たちが分かれるイメージがありますが、そこでの発見や出会いがすごく楽しみですね。2店舗目だからこその良さというものもあると思います。東京の店舗があるからこそ、札幌の方が東京に行ってワークショップができたりもする。これが3店舗目、4店舗目と世界に出ていった時に、海外との繋がりができていく希望もありますよね。ほかに、博報堂主催の「iichi」というハンドメイドやクラフトのECサイトや、台湾発の「Pinkoi」というECサイトとの関わりもあるので、札幌にいる人が札幌のものを買うではなく、東京にいる人、台湾にいる人、アメリカにいる人が札幌のものを買うように、どんどん広がる可能性もあると思います。そのノウハウを札幌の人にも知っていただいて、世界に向けて発信できる拠点にしていきたいです。

最後に、Makers' Base全体としての目標は?

松田:大きな目標としては、物を作って食べていける小さい組織や個人が増えたらいいなと思います。あとは、2020年までに国内8店舗、海外に7店舗を作りたいです。次に作りたいのは台湾なんですよ。東京、札幌、台湾、横浜…と広げていきたいなと思っています。


Makers' Base Sapporo
住所:札幌市中央区南4条西13丁目1-26
営業時間:10:00-22:00
定休日:不定休
入会費:1,080円(税込)
利用プランは2700円〜