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ミニチュアの世界に魅せられた金属造形作家、松田郁美

わずか3センチ程度の小さなパンがついた、作家・松田郁美によるパンブローチ。温かみすら感じる美味しそうな焼き色だけでなく、素材にまでこだわったまるで本物のようなそのパンは、ミニチュア好きの女性の心を虜にし、ミライスト・カフェでも入荷後すぐに売り切れてしまう人気のアイテムだ。しかし、意外にも彼女の本職は、冷たくて固い、大きな立体物を制作する金属造形作家。対照的な二種類の作品を手がける松田さんにお話を伺うため、制作現場である札幌市西区の「アトリエBee hive」を訪ねた。

ミライスト・カフェではパンブローチでお馴染みの松田さんですが、普段は金属造形を手がけていらっしゃるんですよね。いつ頃からですか?

子供の頃から何かを作ったり家で1人で絵を描くことが好きで、高校では大谷高校の美術コースで3年間油絵を描いていたんですが、大学で北海道教育大学の美術コースに進み、専攻分けの時に今までとは違うことに挑戦したくて金属造形を選択したんです。卒業後は、そのまま大学院に進んだのですが、終了してもやっぱりまだ金属造形を続けたくて、大学の先生や同じ研究室の先輩、後輩と集まって「アトリエをつくろう」という話になり、この「アトリエBee Hive」ができました。

二階建ての倉庫につくられた「アトリエBee Hive」。持ち寄ったり、譲り受けて集まったという制作に欠かせない機械類が豊富に揃う。

こちらには11名の作家の方が所属しているそうですが、皆さんにとってどのような場所なのですか?

制作を行うためのメンバー同士のコミュニケーションの場、という感じでしょうか。メンバーはそれぞれ、金属、木工、油絵を制作しているので、異なる分野の分からない部分を教えてもらったり、刺激し合ったりして、とても良い環境ですね。たまにアトリエ会議を開いて、年に一回開催しているグループ展の打ち合わせをしたり、新メンバーの候補に会って話を聞くこともあります。

5月13日(水)から札幌東区の茶廊法邑で開催される「アトリエBee hive展 2015」。今回は9名のメンバーが出展。

松田さんは、金属造形でどういった作品を制作されているのですか?

元々、油絵から金属造形に移行したきっかけは、平面に物足りなさを感じたことでした。油絵だとつい真面目に写実的な絵ばかりを描いてしまって、それなら写真と同じだと感じていたんです。もっと自分らしさを出したい、自分の殻を抜け出したい、と思っていた時に金属造形と出会って、抽象的な作品を作れるようになっていきました。私は人前で自分をアピールできるような積極的な性格ではないのですが、逆に私が作る作品はすごく大きかったり、力強いものなので、「男の人がつくったのかと思った」と言われることもあるんですよ。

「The next view」(2013)
「群生-01-」(2012)
「痕跡-01」(2006)

ポートフォリオを拝見すると円形の作品が多いですが、ここ1、2年はとりわけ球体の作品を多く制作されていらっしゃいますね。

ごちゃごちゃした形の作品も作っていたことはあるのですが、球体にまとめると、全く無駄のない綺麗な形が自分的にすっきりして、一番落ち着くんです。ただ、つるっとした球体より卵の殻のように中が見えると、中に空間が広がるようで面白いと感じるんですよね。作品に対して特にメッセージを込めている訳ではないのですが、見た人が自由に感じて、心惹かれるようなものにはしたいと思っています。

こちらのアトリエには作品の一部があちこちに置かれていますが、普段、制作はどのように進められているのですか?

初めに小さい模型を作って、それに沿って進めています。模型があるとキッチリとした安定感がある無難な感じにはなるんですが、たまに途中で本当に面白いのか疑問を抱くことがあり、そんな時は途中でがらっと変えてみたりもしますね。

球体を作るコツは何でしょうか?

作品によって違いますが、最近はゲージみたいなものをつくることが多いですね。鉄の丸棒で半球を作って、張り子みたいに貼ってから剥がして、それを二つ組み合わせれば球体になるんです。貼っていく作業はとても楽しいんですが、合わせてみたら少し歪んでいたりして、意外と上手くいかないんですよね。そういう時は少しずつ修正して、なるべく真球に近づけるようにします。

ちなみに好きな作家は?

やはり大きな球体の作品を作る、アーノルド・ポモドーロでしょうか。彼が作った作品は、バチカンの庭に置かれていて、表面が割れた球体の中にまた球体がある作品なんです。

パンブローチは金属造形とは全く異なるものですが、何がきっかけで作り始めたのですか?

はじまりは中学生くらいの頃にたまたま見たドールハウスの本でした。中を開いて、ドールハウスよりもその中に置かれている小さな食べ物にとても魅力を感じたんですよね。そこから粘土を買い集めて、ソバやラーメンを作っていました(笑)。その後、一旦その熱が冷めて、油絵や金属造形をやっていたんですけど、最近、フェイクスイーツとかキーホルダーとかを見るじゃないですか。その度にまた気になり出して(笑)。ちょうどその頃、本物のパン生地を使って小さいパンを作る人をネットで見つけて、以前、パン屋さんで勤務していた時に見た、職人さんが作るディスプレイ用の飾りパンの小さいバージョンかと思い、挑戦してみたのが1年くらい前ですね。そうしたら、意外と上手くできて。初めは雑で今イチだったんですが、どんどんリアルな感じに近づけたくなって、焼き時間など試行錯誤していきました。

具体的にどのように作っていらっしゃるんですか?

基本は、パン作りに使う粉、水、塩を使って、初めは家庭用オーブンを200度くらいに設定し、10分程焼くんです。丁度いい膨らみ加減と焼き加減になったところで低温でじっくり焼いて、その後はカラカラに乾燥させて、厚めにラッカーをかけてコーティングしています。表面に白っぽい粉が付いているものは、白い絵の具を付けたスポンジでポンポンって叩いているんです。

焼く前のパン。
こんがりと焼き上がったパン。

パンの種類も色々ありますよね。

初めはプレーンの材料だけを使っていたんですけど、本物のライ麦を入れたら細かいプツプツが出て、よりリアルになりました。ほかにも、抹茶やココア、レーズンを入れたり、カボチャパウダーを入れたカボチャパンも作ったことがあります。パン屋さんに行く度に、自分で作れそうなパンをメモしているんですが、アトリエの近くですと、「ブーランジェリーポーム」は飾っておけるようなオシャレなハード系のパンが多くて気に入っています。

制作過程で一番難しいところはどこですか?

やっぱり焼き色ですね。白っぽいパンは早目に出さなければいけないですし、焼き過ぎてしまうと表面だけでなく全体が黒くなってしまうんです。でも最近、ひとつ発見があったんです!上だけにこんがりした焼き色を付けたいときは、魚焼きグリルの直火を使うといい感じになるって(笑)。だから、オーブンと魚焼きグリルの前に付きっきりになりながら、「これはいいかな?」「この辺はもうちょっと足りないな」って焼き加減を見ているんですよ。それでも焼き色が足りないときは、コピックという透明なマーカーを使って塗り足したりもします。

パンから発展させた作品も幾つか作られていますよね。

このオーブンはディスプレイ用で、小さいパンと金属造形をコラボさせた作品です。スイッチもあって、LEDの電気がつくんですよ(笑)。暗いところで見ると、より本物のオーブンぽく見えると思います。これは受注生産という形でオンラインで販売したんですけど、制作に1ヶ月くらい時間がかかって大変だったので、1回限りで終えました(笑)。ほかには、パンの時計も作っています。時計類はすごく人気なんですよ。

パンが入った幅10センチ程度の小さなオーブン。パンはもちろん、オーブンも全て手作り。
小さなパンが付いた置き時計。下の方には金属造形の技術が活かされた麦の穂がついている。

先日、ミライスト・カフェの人気商品のガレットも作って頂きましたね。

バッチりマーケット」という団体で、パンのブローチをミライスト・カフェで販売させて頂いているんですが、追加納品の際に、店員さんの間で「ミライスト・カフェのガレットも作れるんじゃないかな?」という話が出たことを伺ったのがきっかけでした。ただ、作ってみると、ガレットって出来上がりは薄いクレープみたいなものなのに、元がパン生地なためすぐに膨らんでしまうので、結構難しいんですよね。それで、空気が抜けるように生地に穴を開けてみたり、カフェの方からガレットに使っているものと同じそば粉を頂いて試してみたりしました。そば粉の分量を調整するうちにだんだん本物に近づいて、なんとかそれらしいものが出来ました。

ミライスト・カフェのガレットを忠実に再現した小さなブローチ。人気のソフトクリームも。

完成まではどのくらいかかりましたか?

1ヶ月くらいでしょうか。最初はガレット1種類だったんですけど、メニューを見せてもらったらほかにも色々種類があったので、どれも作ってみたくなりました。作ってみて気に入って頂いたものだけを売ってもらえればいいなと思っていたんですけど、お見せしたら「どれもいいですね、全種類売りましょう」って言っていただいてとても嬉しかったです。

今後の展望はありますか?

金属造形の作品は幾何学的で無機質で、パンは可愛くて美味しいそうなもの、という全然違う感覚で作っているんですが、金属造形とパンのコラボは面白いですし、幅も広がっていく感じはしています。時計以外にももっと何かできたらいいですし、パン屋さんとのコラボもしてみたいですね。あとは、どんどんパン屋さん巡りをしてバリエーションを増やして、アートマーケットなどで売ってみたいです。


アトリエ Bee hive展
会期:2015年5月13日(水)〜5月21日(木)※ 19日休廊
時間:11:00〜18:00(最終日は17:00まで)
会場:茶廊法邑
住所:札幌市東区本町1条1丁目8-27

《松田郁美 プロフィール》

釧路生まれ、札幌在住。ミライスト・カフェでも販売中の本物の食材を使ったミニチュアのパンづくりのほか、札幌市内の「アトリエ Bee hive」で金属の立体作品を手がけている。

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