ミライスト通信
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日常に心地よく溶け込むサトウアサミのデザイン

サトウアサミが生み出すものには、日々の生活の中に自然と溶け込みながら、小さな輝きを与えてくれる不思議な魅力がある。毎日のように通る地下道の壁や、何気なく入ったカフェに置かれたコーヒーの缶、和菓子の包み紙に、コートの襟に付けられたテキスタイルバッジ。見ようによっては和風でも洋風でもあり、それが今の日本の暮らしにぴったりと当てはまっているのかもしれない。11月30日まで開催中のCLASKA Gallery&Shop"DO" 札幌ステラプレイス店での展示の為に、久々に出身地の札幌に帰ってきたサトウアサミさんに作品についてのお話を伺った。

サトウさんはどのようにして今のお仕事をされるようになったのですか?

父が設計の仕事で、母もクリエイティブな仕事をしていたので、いつもゼロからものをつくる様子を見ていて、子供の頃から今のような仕事に興味を持っていました。勉強は得意ではなかったんですが、工作や美術だけは好きだったので、両親がそういう部分を見極めてとても褒めてくれて、調子にのってどんどんやっていった感じですね。(笑)

肩書きはアーティストになるのでしょうか?それともイラストレーターですか?

括りはよく分からないんですけど、一般的なアート系のものには一切興味がなくて、常に商業に結びつくデザインの仕事に憧れていました。今の仕事としては、イラストレーターでもあり、デザイナーでもあるのですが、雑誌のカット、札幌駅の地下のような壁画、広告、テキスタイルの柄の提案など、万遍なく色々なお仕事を頂いています。

雑誌「InRed」内の星占いページ「Happy Horoscope」のイラスト
札幌APIA 地下1F太陽の広場の壁面アートワーク「DAZZLE」
札幌市役所1Fロビーのベンチカバー

作品で使われるモチーフは、花や器など日常生活にあるものが多いですね。

モチーフだけでなく、基本はなんでもインテリアベースなんですよね。頭の中にある物をその空間に置いたらどうなるかを考えてから描くんです。こういうお店ならこういう内装で、こういうものが置いてあったらいいな、だからこういう張り地にしよう、とか。毎年違う柄で展開していく佐藤珈琲のオリジナル缶のデザインのお仕事があるんですが、それも缶が並んだ風景を思い浮かべるところから入っていきました。

ポートフォリオより
SATO COFFEE オリジナル缶6th

イラストを描かれる際には何を使われていますか?

メインは墨で、あとはアクリルです。アクリルは色の箇所で使って、墨を使うのは黒い部分ですね。紙も慎重に選んでいて、基本的には和紙ですが、墨を使うと滲みがうるさい時があるので、個性が出過ぎる場合には画用紙に変えてみたりもします。

墨の魅力とは何でしょうか?サトウさんの作品は確かに滲みが印象的なものが多いですが。

墨もアクリルも両方“強さ”があるのですが、アクリルは感覚と合わない部分があり、墨の方が扱いやすいんですよね。この作品(左下)も墨ですね。右の作品はベージュの和紙に墨で描いているんですが、アクリルで青く抜いて、最後にも白いアクリルで塗っています。墨にアクリルって、ちょっとはじけたりするニュアンスが良くて、面白いんですよね。

ポートフォリオより
ポートフォリオより

PCは使われないんですか?

処理として使うだけで、絵を描くために使うことはないですね。テキスタイルっぽいペタっとしたこのような絵(左下)の時は墨で描いた3つの絵をスキャナーで取り込んで、イラストレーターでパスを切ってリピートさせています。右はレイアウトが動かない絵ですね。

ポートフォリオより
ポートフォリオより

レイアウトが動かない、ということは、構図はその時の感覚で?

そうですね。左上から描き始める癖があるので、そこで全体が決まっていきます。後からサイズを変えたり、無理矢理加工したりするのは好きじゃないので、基本的には成り行きまかせで、原画は原画のままなんです。下書きも苦手で、壁画の場合でも大体の検討さえつけずに遠くから確認しながら、小さいサイズの時と同じように左端から描いていくんです。例えば、最初になんとなく「ドットの器にしようかな」と考えながら色をのせて、その後で墨で線を描いています。先程(右上)の作品の場合も、左端から赤の丸、次にグレー、ベージュ…と塗ってから、最後に墨で線を描いています。

線から描いていかれるのだと思っていたので、少し意外ですね。ところで、サイトに掲載されている2008年から最近のお仕事をひと通り拝見して気づいたのですが、当時も今もモチーフは同じなのに、構図や色、特に線がとても変化して、非常に成熟した印象を受けました。ご自分でも気づかれている部分はありますか?

6年前と今が違うというのは、自分でも感じています。モチーフも同じで、見ているシーンも割と変わらないんですけど、きっと今は強いだけのものを求めていないんですよね。墨を使うようになったのは、この仕事を始める前にやっていた木版画がきっかけなのですが、木版画の“強さ”が今も自分の根本にはあるんですけど、数年前からすっきりした感じで描きたくなって、今はその“強さ”を押さえています。それはいいことなのか、悪いことなのか、自分では分からないですけど。

商業的なお仕事には今のスタイルの方が好まれるように思えますが。

確かに「すっきりさせたい」と思い始めた辺りから、パッケージデザインなどのお仕事を依頼される機会が増えたような気がします。このお仕事を始めたばかりの20代頃の「描いてみたら」と言われるノリではなくて、優しいラインになってから本気で依頼されることが多くなったかもしれないですね。

Afternoon Tea TEAROOM 冬期限定チョコレートのパッケージ

サトウさんの作品の最大の魅力のひとつに、和にも洋にも見える不思議なバランス感があります。和菓子屋さんの包み紙ではとても和に見えるのに、同じモチーフがテキスタイルになると北欧風に見えたりもして、その辺りはご自分で意識されてのことですか?

意識はしていないんですが、基本的には日本のものが好きで、古い日本のものからヒントを貰うことは多いんです。以前、絵の仕事をしながら狂言をやっていたことがあるんですが、狂言って能とは違って庶民的なもので、装束の背中にまん丸の大根の絵が描いてあったりして可笑しいんですよね。狂言で使われる色合いやとぼけた感じの間がすごく好きで、あんな風に描きたいと思うことはありました。木版画を始めたのも、北海道立美術館で棟方志功展を開催していた時に、大きな作品に小鬼みたいなものがポツンとある作品を見て「かっこいい!」って刺激されたからなんです(笑)。北欧っぽいというのもよく言われて、そっちを目指してはいる訳ではないんですけど、北海道では冬の間は家に籠るので、家の中を楽しくしたい、という気持ちは強くありますね。

ニセコ和菓子工房松風の化粧箱の図柄デザイン
「2012 伊勢丹オリジナル日本の伝統x現代アート」のランタン
「2012 伊勢丹オリジナル日本の伝統x現代アート」のランタンに提供した図柄

最近、インテリアショップのIDÉEとお仕事をされる機会が多いですよね。IDÉEも洋のようで和の感覚を大切にしている印象を受けるので、相性が良いのかもしれないですね。

ちょうどこの間お話を伺ったばかりなんですが、IDÉEのオリジナル商品は殆どが国内の職人さんによるものらしいんです。それもあって、一緒にお仕事をさせてもらえるのはとても幸せです。実は今、IDÉEから頂いているすごく嬉しいお仕事があるんです。マティスやピカソも使っていたパリの「idem」という100年以上続くリトグラフ工房があるのですが、そこでIDÉEがチョイスした6作家の計8作品を刷るというもので、私も2点制作させて頂きました。色が指定されていて、ひとつがピンク、緑、黒の3色、もうひとつが青、黄色、黒の3色なんですが、少しくすみのある素敵な色なんです。これから自宅に戻ったら、現物にサインとエディションを記入するのですが、11月21日から額装したものを各100枚ずつIDÉEと無印良品の大型店で展示販売する予定です。

パリのリトグラフ工房「idem」で刷られた作品
パリのリトグラフ工房「idem」で刷られた作品

ミライスト・カフェではサトウさんの代表作とも言えるテキスタイルバッジをご覧頂くことができますが、色々な柄があり並んでいるのを見ているだけでも楽しくなる素敵なバッジですよね。こちらについても少し教えて頂けますか?

テキスタイルを手がけるようになってまだ間もない頃に、展示を開いた札幌のFAbULOUSというカフェのオーナーの中村さんにバッジを提案されたんです。「缶バッジでも布だったら丈夫でいいんじゃない?」とお店の立場でご意見を頂いて、早速作ってみたら面白くて私もすぐにはまってしまいました。このバッジ、実は制作をお願いしている業者さんが全て札幌にあるんですよ。

テキスタイルバッジ

バッジも札幌生まれなんですか?

そうなんです。まず、テキスタイルの印刷は東区の美秀さんにお願いし、バッチの加工はトロフィーなどを制作しているオリジナルHOTTaという中央区の会社にお願いしています。台紙は、同じく中央区にある紙専門店のペーパーショップサクマで仕入れて、最後は検品しながらひとつずつ布で裏を拭いて、サインのハンコを押したら梱包して完成です。

そこまで札幌にこだわって作られていると思い入れもありますね。

そうですね。バッジを仕上げるのはすごく楽しいです。自然と派生した感じも自分ぽくて良かったかなと思いますし、プロダクトに偏ってしまうのではなく、やってみたいことやモノをつくることを絵の仕事と両立できるのも嬉しいですね。毎年北海道で印刷しているカレンダーもあるんですが、やっぱり印刷屋さんありきなんです。何か困ったときや、自分では実現可能かどうか判断できないときに専門の知識を教えてくれて、ヒントをくれる業者さんにはいつも本当にお世話になっています。これからも札幌と東京の距離感を感じさせないお付き合いをしていけたらと思っています。

《サトウアサミ プロフィール》

1977年生まれ、札幌出身。空間、装丁、雑誌、プロダクト、パッケージデザインなどのアートワークを幅広く手がけ、2012年からはテキスタイルデザインも展開。2011年に活動の拠点を札幌から東京に移した。

http://satoasami.com/